私の世代は切符というものに妙に愛着があって、時には執着心も出るのですが、最近の若い人たちは、マニアックな趣味の対象として以外には切符というものにあまり興味がないように感じます。
というよりも、切符そのものが日常では使われなくなってきて、カードをタッチするだけで電車に乗れるようになっていることを考えると、切符という概念そのものが近い将来に消滅してしまいそうな気がします。
それはそれで世の中の流れですから、私はかまわないと思いますが、小さな紙切れ1枚に、いろいろな情報が記載されていて、子どものころからそれを読み解きながら鉄道に興味を持った世代としては、切符というものは子供が成長過程でロジカルに物事を考える大人になるためには必要なのではないか。
そんな風に考えるわけですが、皆様はいかが思われますでしょうか。

ところが日本ではこんな紙切れを到着するまで後生大事に所持していなければならない。途中、列車の中だろうが、乗換駅だろうが、係りの人に尋ねられたら、直ちにこの紙切れを所持していることを自分自身で示さなければ、無賃乗車とか不正乗車の疑いをかけられる、つまりは犯罪者と思われるようなこの国の鉄道システムは、私は今の時代の顧客サービスとしてどうなんでしょうか、という疑問を常に持っていますが、そういう疑問というのは、子供のころから乗車券ルールに精通し、きちんと切符というものを使いこなしてきたうえでの疑問でありますので、やはり、そろそろ皆さんもお考えになられた方が良いのではないでしょうか。特殊な趣味の対象としてこだわりを持っている人は別として、一般の移動手段として鉄道を考えた場合、各種コンペティターが氾濫する今の時代にこのやり方を押し通していくとすれば、鉄道の将来は危ういのではないかと思うのであります。

ということで、前回に続いて2回目の今日は長距離切符の登場です。


▲太海から東京電環ゆき
昭和46年12月19日と昭和47年2月3日のものです。
東京電環というのは言わずと知れた山手線のこと。
当時はこういう表記をしていました。
駅の窓口で大人たちは「電環1枚」とか言っていたのを記憶しています。
土気、両国経由と書かれていますが、安房鴨川から外房廻りで千葉から総武線で秋葉原へ行けということです。

当時は京葉線も武蔵野線も総武快速線(錦糸町―東京)もありませんでしたから、土気、両国経由が最短ということになります。内房廻りも大網から東金線もダメですよという意味が土気経由。千葉から成田線廻りで上野に入ることもできませんというのが両国経由の表記が意味するところです。
上の切符は下総中山で途中下車しているようですね。
私の父は当時太海と興津に家があって、よく行き来していましたが、この日は下総中山で途中下車。その理由は「有馬記念」でしょう。
もう父に口はありませんが、アリバイを崩されてしまいましたので、今頃草葉の陰で苦笑いしていると思います。


▲こちらは安房天津から東京電環ゆき。
東京電環という言葉があちらこちらで使われていたのが、私の世代にとっては懐かしい響きです。
ちなみにこの切符は普通乗車券ですから、急行列車に乗るときには「急行券」が必要です。

▲これがその急行券。今、いすみ鉄道で復刻したものとほぼ同じスタイルです。

▲東京電環ゆきの切符の裏面には「東京電環内 下車前途無効」と書かれています。
ルール的には今と同じですね。

外房電化が昭和47年7月ですから、まだ電化前の房総東線、房総西線と呼ばれていた時代。房総西線(内房線)は安房鴨川まで電化されていました。
上総興津から太海の親戚へ行くときには、ディーゼルカーに乗って鴨川へ出ると黄色い101系や茶色いチョコレート電車が待っていましたが、子供心に、東京と反対の方向へ行く(東京から離れていく)のに、奥の方が電化されているのがとても不思議な感覚でした。


▲この切符はその房総西線経由のもの。浜野経由とあるのが木更津廻りを示しています。
千倉から乗車して、急行列車の始発駅が館山駅だったりすると、急行券は館山からになりますね。

▲これは太海駅発行ですが、急行列車が走らない区間や時間帯では、実際に急行列車に乗車する駅からの急行券を駅名押印で発行していたということになります。
実は、今、いすみ鉄道でもこのタイプの急行券を用意していますが、国吉や上総東から急行に乗る場合、あらかじめ大多喜駅や大原駅で発券すればこういう急行券になるわけです。

▲で、ここまで急行列車が一般的になってきたので、国鉄では2枚の切符を1枚にまとめて「普通乗車券・急行券」というのを売り始めました。これなら2枚持たなくても大丈夫だし、途中下車しない人であれば十分というわけです。
この切符はなかなか優れものだと思いますが、当時の大人の中には「急行列車に乗る前提でこういう切符を作るとはけしからん。」と怒る人もいました。あくまでも普通列車で旅行できることが基本であり、国鉄が金儲けのために急行に乗せたがるというのがその理由ですが、確かにその10年ほど前には普通列車が基本でしたから、そういう気持ちになるのも理解できるというものです。

▲この切符の裏面は乗車券に関するルールと急行券に関するルールが併記されています。

では、田舎から都会へ来る場合ではなくて、都会から田舎へ行く場合はどういう切符だったのでしょうか。

▲それがこれです。
昭和43年7月28日の東京電環から勝浦、上総興津ゆき。
私は小学校2年生でしたが、父と一緒におばあちゃんちに出かけた時のものです。
子どもでしたから、あとでいたずらに「小」の字を赤で書き込んだあとが残っていますが、秋葉原駅で発行された東京電環発の乗車券です。
この切符には「2等」と記されていますが、つまり普通車用ですね。
グリーン車(1等車)というのは、今は追加料金(グリーン料金)を払えば乗車できますが、昔は乗車運賃そのものが異なっていたのです。
では、それはいつまでかというと、44年5月10日。
前回ご紹介した新小岩から30円のこの切符は等級廃止からわずか一週間後の物ということになります。▼


▲上の東京電環発の乗車券の裏面がこれ。
ルールとしては「東京電環内途中下車禁止」と書かれています。
前途無効では目的地へ行けなくなってしまいますから、「禁止」ということだと思います。


▲さて昭和47年7月にめでたく東京地下駅が開業し、房総半島はぐるり一周電化が完成しました。
それをきっかけに外房線という名前になったわけですが、同時に東京電環という表記から東京山手線内と変更になりました。これは上総興津からの乗車券です。


▲それに伴い、急行券も変化しました。
上は電化開業前のディーゼル急行「そと房」時代の急行券。
下は電化後の165系で運転された急行「なぎさ」のものです。
電化直後の外房線は特急「わかしお」の他に、急行「みさき」「なぎさ」という列車が走っていました。
昨日のブログにその写真を載せてありますが、この急行列車はぐるりと房総半島を一周する列車で、都内→外房→内房→都内のコースを「みさき」、都内→内房→外房→都内と走る列車を「なぎさ」と命名しました。
東京から上総興津へ行く場合、行きは「みさき」、帰りは「なぎさ」となるわけですが、この循環急行は館山―勝浦間を普通列車として運転していましたので、急行券不要で乗車することができました。
上総興津から東京方面へ「なぎさ」に乗車しても、勝浦までは普通列車ですから、急行料金が課金されるのは勝浦からということになります。したがって、下の急行券は上総興津発行であるにもかかわらず、勝浦から200kmと表記されているということです。
料金的には変わらないのですが、規則としてはそういうことになりますね。

房総半島のような東京から120?程度のところに特急、急行、快速、普通というたくさんの種別の列車を走らせることに意味があるのかという議論は、当時さんざんされていたと思います。今、当時の鉄道雑誌を読み返していみてもそれが良くわかりますが、国鉄としては少しでも増収のためにどうしても特急を走らせたかったのだと思います。
それが良くあらわれているのがこの自由席特急券。急行列車ならば200円のところを特急では500円支払わなければなりません。つまり2.5倍の料金です。そして所要時間はと言えば15分から20分程度の違いしかありませんから、整合性が取れなくなるわけです。


▲1973年5月のJTB時刻表から外房線のページです。
8:04に両国を出た急行「みさき2号」が勝浦に9:59に到着しています。所要時間は1時間55分です。
これに対して、10:00に東京を出た特急「わかしお3号」は10:41に勝浦着。この列車は最速で所要1時間41分で勝浦に到着していますが、それでも14分しか変わりません。次の「わかしお4号」は11:00→12:47で1時間47分かかっていますから急行「みさき2号」とは8分しか所要時間に差がありません。にもかかわらず特急料金が急行料金の2.5倍ですから、これでは国民が納得しないわけで、そこで国鉄が取った策とは、特急列車は設備で上回っているのですと、房総電化で登場した183系には「簡易リクライニングシート」なるものを取り付けました。
ひじ掛けの下のレバーを引くと背もたれが倒れますよ。急行列車のボックス座席よりもはるかに上等ですよというわけです。ところが、こうなると同じ特急車内で、普通車とグリーン車との差がつかない。どちらも2人掛けの座席の背もたれが倒れるわけですからね。そこで国鉄としてはグリーン車との差をつけるために普通車のリクライニングは「簡易」ですよということで、ひじ掛けの下のレバーを引けば背もたれは倒せますが、でも、背を放すとバタンと戻ってしまうリクライニングに、わざわざシートの構造を設定したわけです。これがいわゆる「簡易リクライニングシート」が「簡易」たるゆえんで、グリーン車は倒した背もたれが戻らないけど、普通車は背を放すとバタンと戻ってします。国民への言い訳のためにわざわざこのようないじわるともいえる構造を座席に設けたわけですが、これが当時の増収のためになりふり構わぬ国鉄の姿勢で、今考えると、国鉄の商売がおかしくなり始めたのは、どうもこのあたりからのような気がしています。


▲五稜郭のD52が表紙を飾る鉄道ファン1972−10
その次のページには房総電化、特急デビューの華やかな記事が。

▲千葉鉄の新しいスタート という特集記事が組まれていました。

たかが切符、されど切符。

私は小学生(昭和42年〜47年)の時に、国鉄の切符を通じてこのようにいろいろ社会勉強をさせてもらったわけですが、そういう人間が半世紀近くの時を経て、今、いすみ鉄道で「硬券記念乗車券」なるものを作っているわけですから、いすみ鉄道の硬券切符は筋金入りであるということをご理解いただけるのではないかと思います。


▲昭和47年8月 上総興津駅に到着する急行「みさき」
左の列車は臨時の快速「白い砂」。このころはまだ113系も冷房準備車でした。

快速:非冷房、一部ロングシート
急行:冷房付のボックス
特急:冷房付、簡易リクライニング

これが料金の差であると言っていたわけですが、そんな時代は長くは続かないということは、当時は小学生だって理解していましたよ。

今でも御宿や勝浦のおじいさんたちが二言目には「昔はお客さんが多くてすごかったんだぞ。」という時代のお話でございます。

それでは皆様、今年も1年間ご愛読いただきましてありがとうございました。
どうぞよいお年をお迎えください。

2016年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

(明日のブログはお休みさせていただきます。)

元記事へのリンク

いすみ鉄道 社長ブログいすみ鉄道 社長

投稿者プロフィール

いすみ鉄道のようなローカル線は、鉄道会社といっても零細企業です。こういう小さな会社は、社長が何を考え、どういうポリシ―や方向性で進んでいるのかを皆さまに直接お伝えし、ご理解いただくことが大切だと考えています。このブログでは、地元の情報やイベントなども併せて、「いすみ鉄道の今日」をお伝えいたします。どうぞお付き合いくださいますようお願い申し上げます。

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